2026/07/13

遙邨に間近で出会う。倉敷市立美術館「山の風景」展 


遙邨に間近で出会う。倉敷市立美術館「山の風景」展 

倉敷美観地区のほど近く、丹下健三設計のモダニズム建築として知られる倉敷市立美術館。

2026年5月12日から7月12日まで3階の池田遙邨コーナーにて開催されていたのが「山の風景」展です。《山湖》や《富士》など、山をテーマに描いた作品とスケッチが展示されたこのコーナーで、倉敷ゆかりの日本画家・池田遙邨の世界に静かに引き込まれました。

観覧料は無料。美術に詳しくなくても、ふらりと立ち寄れる敷居の低さが、この美術館の大きな魅力のひとつです。

山は神が宿る場所。遙邨が生涯向き合い続けたテーマ

	 遙邨に間近で出会う。倉敷市立美術館「山の風景」展

展示室の入口には、この展覧会のコンセプトを記した一文が掲げられていました。

「山は神が宿るとして古くから信仰の対象となり、人々の生活に豊かな恵みをもたらしてきました」

その言葉通り、遙邨は生涯を通じて富士山をたびたび描き続けました。

しかし展示説明には、遙邨自身の言葉として「描こうとすると観念的、写真的な描写になってしまい、自分自身の富士山を表現するのは難しい」という告白が記されていました。

それぞれ違った画風で制作された「富岳」や「富士」をはじめ、伯耆富士とも呼ばれる大山、荒々しい岩肌の妙義山、奇岩の渓谷美を見せる寒霞渓、勢いよく噴煙を上げる浅間山の写生など、多彩な山の表情が並ぶ展示室は、一枚一枚の画風の違いを比べながら見るのが楽しい空間でした。

展示室のガラスケースには完成作と下絵のスケッチが並べて展示されており、完成された作品と向き合いながら、その制作の道筋を自然に辿ることができます。

今回の展示で最も心を動かされたのが、ケースに収められたスケッチの数々でした。

水彩絵の具・色鉛筆・インクなど多様な画材を使い、勢いのあるダイナミックな描線で山の稜線を捉えたもの、繊細で密な描写でその山の特色を表現したもの。

同じ遙邨の手によるものとは思えないほど、その表情は豊かです。

完成された大作とは異なり、筆や鉛筆が走った跡がそのまま残るスケッチには、遙邨が目の前の山を見つめ、その姿を紙に写し取ろうとした瞬間の息遣いが感じられました。

画家が実際に山に立ち、風を感じ、光の変化を追いながら手を動かしていた。

その現場の温度が、小さな紙の上にそのまま残っているようでした。名のある画家の「生の筆遣い」にこれほど身近に触れられる機会はなかなかありません。

それだけで足を運ぶ価値があると感じました

池田遙邨は1895年(明治28年)、岡山県に生まれました。

15歳で単身大阪に出て洋画を学び始め、19歳で第8回文展に水彩画「みなとの曇り日」が入選。

天才少年画家として名声を得ました。その後、同郷の日本画家・小野竹喬との出会いをきっかけに日本画へと転向し、竹内栖鳳の画塾・竹杖会で研鑽を積みます。

歌川広重に心酔し徒歩で東海道を旅した「昭和東海道五十三次」、晩年の「山頭火シリーズ」と、常に旅と自然を愛しながら表現を更新し続けた画家でした。

1987年に文化勲章受章、翌1988年に92歳で逝去しています。

1980年、遙邨は自作489点を倉敷市へ寄贈しました。

その寄贈をきっかけに丹下健三設計の旧市庁舎が美術館へと転用され、1983年に倉敷市立美術館が開館しました。

その後も寄贈が続き、現在では8,000点を超えるコレクションへと育っています。

つまりこの美術館は、遙邨の作品があったからこそ生まれた場所なのです。

次は「はじめまして遙邨さん」。夏の遙邨がさらに楽しめる

	 遙邨に間近で出会う。倉敷市立美術館「山の風景」展

「山の風景」展は7月12日に終了しましたが、倉敷市立美術館では7月25日(土)から9月23日(水・祝)まで、コレクション展「はじめまして 遙邨さん~知る・たどる・発見する~」が2階第2・3展示室で開催されています。

洋画から日本画への転向、《災禍の跡》《昭和東海道五十三次》、晩年の「山頭火シリーズ」まで遙邨の画業全体を追う内容で、ギャラリートーク(8月23日・9月12日)や日本画体験ワークショップ(8月8日)も予定されています。

また7月14日(火)から9月13日(日)まで、3階コーナーでは「旅人のまなざし 文人のおもむき」が無料で開催中です。

まとめ

倉敷市立美術館は、開館時間9時から17時15分(最終入館16時45分)、休館日は月曜日(休日の場合は翌日)。

観光客も地元の人も、気軽に立ち寄れる場所です。

遙邨という画家を知れば知るほど、倉敷という土地の文化の深さが見えてきます。ぜひ一度、その世界に足を踏み入れてみてください。

施設情報
住所 〒710-0046 岡山県倉敷市中央2丁目6−1

2026年7月13日現在の情報です。

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