白と藍が食卓を彩る。丸善で出会う砥部焼の世界

岡山市北区、街の中心部にある丸善・岡山シンフォニービル店。
静寂に包まれた書店の地下1階ギャラリーで、現在「暮らしの中の砥部焼展」が開催されています。
入場無料で気軽に立ち寄れるこの空間に足を踏み入れると、そこには白磁のキャンバスに深い藍色が映える、凛とした器たちが静かに出迎えてくれました。
本と文具という知的な空気に満ちた書店の地下に、四国・愛媛から届いた手仕事のぬくもりが広がっています。
その意外性のある取り合わせが、かえって日々の生活に心地よい刺激と彩りをもたらしてくれました。
250年の歴史が宿る白磁。砥部焼が生まれた背景

愛媛県伊予郡砥部町で脈々と受け継がれてきた砥部焼。その歴史は江戸時代中期に遡ります。
1776年(安永5年)、財政難に苦しんでいた大洲藩の藩主・加藤泰候が、領内の活性化を願い磁器生産を指示したことから始まりました。
しかし、それは決して平坦な道ではありませんでした。何度も失敗を繰り返し、ひび割れ、釉薬を改良する苦闘の末、2年半という歳月を経てようやく白磁の焼成に成功したのは1777年(安永6年)のことでした。
砥部焼の最大の特徴は、やや厚みのある白磁に、「呉須(ごす)」と呼ばれる薄い藍色の絵付けが施されている点です。
他産地の繊細な磁器に比べ、頑丈で重量感があり、実用性に富んでいるのが大きな魅力です。
その丈夫さは、古くから「喧嘩器」と親しまれたほど。日々の生活で気兼ねなく使え、長く愛用できる道具として磨かれてきました。
戦後には、民芸運動の父と呼ばれる柳宗悦らが砥部を訪れ、その手仕事の美と、量産化に流されない質実剛健な姿勢を高く評価しました。
このことが、現代に至るまで伝統的な技法と手描きの温かみを守り続ける大きな後押しとなっています。
現在も約80軒の窯元が町に点在し、それぞれが独自の作風を追求しながら、暮らしに寄り添う器を生み出しています。
展示室を飾る立体的なサインのそばには、湯のみやマグカップ、小皿が整然と並びます。そこにあるのは美術品のような気難しさではなく、思わず手に取りたくなる親しみやすさです。日々の食事やティータイムの風景に自然と溶け込む佇まいは、使い手の日常を慈しむ心の表れのように感じられます。
風鈴の涼やかな音から、現代的なマグカップまで

展示室の中でひときわ目を引いたのが、天井から吊るされた砥部焼の風鈴の列です。
白磁の清涼感ある地に、藍色の唐草やドット、格子といった絵付けが施された小ぶりの風鈴。
赤・青・紫の短冊が揺れる様子は、夏の訪れを告げる爽やかな音を運んできそうです。
陶器特有の、金属とは異なる柔らかな響きは、暑い季節の暮らしに一服の涼をもたらしてくれます。
砥部焼で風鈴を作るという遊び心あふれるアイデアに、伝統工芸の新しい一面を見た気がしました。
また、ガラスケースに並ぶ現代的なデザインの器たちも見逃せません。
規則正しく並んだ幾何学模様のマグカップや、縁にスタンプが連なるモダンなお皿など、伝統的な藍色を継承しながらも、今の食卓に違和感なく溶け込むデザインが光ります。
丸善という書店空間の中でこうして対峙すると、日用品としての器の存在感がより研ぎ澄まされて感じられるから不思議です。
砥部焼の魅力は、ただ美しいだけではありません。
保温性に優れ、持ち手もしっかりと馴染む厚み。毎朝のコーヒーや、夕食の味噌汁のためにこの器を選べば、日々のルーティンが少しだけ特別な儀式に変わります
。使い込むほどに表面はしっとりと落ち着き、手になじみ、暮らしの一部へと育っていく。
そんな「育てる器」としての魅力が、会場に並ぶ品々から静かに伝わってきます。
まとめ
「暮らしの中の砥部焼展」は7月6日(月)まで、丸善・岡山シンフォニービル店地下1階ギャラリーにて開催されています。営業時間は10時〜18時(最終日は15時閉場)、入場無料です。
250年の歴史を経てなお、私たちの暮らしを豊かに彩る砥部焼。
ぜひ一度、その重みと手触りを確かめに訪れてみてください。日々の食卓を少しだけ贅沢にし、長く連れ添える一枚との出会いが、ここで待っています。
書棚の合間に見つけた小さな工芸の物語が、あなたの暮らしをより温かなものにしてくれるはずです。
※ 2026年6月26日現在の情報です。
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