「muladhara spa」が届ける心と身体のメンテナンス

「ヘッドスパを受けてください」ではなく、「心が壊れる前に来てほしい」。
取材中、何度も耳にしたその言葉が、最後まで頭から離れなかった。
神戸・元町にあるmuladhara spaは、ヘッドスパやボディケア、フェイシャルを提供するリラクゼーションサロン。
オーガニックやエシカルにこだわったショップも併設され、店内はまるで誰かの家のリビングに招かれたような穏やかな空気が流れている。
美容の話を聞いているはずなのに、気づけば話題は「心のメンテナンス」へ移っていた。
それは、オーナー自身が肌荒れや心身の不調を経験し、「人は心が元気でなければ、本当の意味ではきれいになれない」と実感してきたからだという。
この場所が届けているのは、単なる癒やしではない。
忙しい毎日の中で、自分自身と向き合うための時間だった。
コンプレックスが教えてくれた、美容の本当の意味

オーナーが美容の世界を目指したきっかけは、自分自身へのコンプレックスだった。
高校時代は自分に自信がなく、メイクを楽しむ機会も少なかったという。
そんな頃、友人に誘われて訪れた美容専門学校のオープンスクールで、初めてプロにメイクをしてもらった。
ほんの少し手を加えただけで、鏡の中の自分が違って見えた。
「こんなに人って変われるんだ。」
その驚きが、美容の仕事を志す原点になった。
卒業後はメイクの仕事に就いたものの、慣れない環境やストレスから、今度は自分自身が肌荒れに悩まされるようになる。
皮膚科へ通っても改善せず、人に会うことさえ億劫になった。
「メイクなら隠せる。でも、根本は何も変わっていない。」
その経験から、美しさとは見た目だけではないと気づいたという。
もっと根本から人に寄り添える仕事がしたい。
そう考え、エステの世界へ進むことを決意した。
さらに転機となったのが、理容師免許の取得だった。
当時の社長に「将来は病気や事情で外出できない人の家へ行き、施術ができる人になりたい」と話したことを覚えていてくれ、「髪が切れたら、もっと多くの人に触れられると思わへんか」と背中を押された。
働きながら3年間学校へ通い、理容師免許を取得。
その経験が、現在のヘッドスパやシェービングの技術につながっている。
話を聞いていると、目の前の技術よりも、その先にいる「人」をずっと見続けてきた人なのだと感じた。
「疲れてから」ではなく、「疲れる前」に来てほしい

東京では店長やマネージャーを務め、店舗運営やスタッフ教育、技術チェックなど、多くの責任を担ってきた。
充実した毎日だった一方で、気づかないうちに心と身体は悲鳴を上げていた。
眠れない日が続き、自律神経が乱れ、鍼灸師から「今まで気力だけで頑張ってきたね」と言われたことが、大きな転機になったという。
その経験があったからこそ、「リラクゼーションは贅沢ではなく、心と身体のメンテナンス」という考え方にたどり着いた。
だからこのサロンには、完全個室を選んだ理由がある。
カーテン一枚では話せない悩みも、扉を閉めた空間なら自然と話せる。
実際に、お客様から仕事や家庭、心の悩みを打ち明けられることも少なくないという。
店内へ一歩足を踏み入れると、外の車の音が少し遠くなるような感覚があった。
観葉植物や木の質感、やわらかな照明。
いわゆる「エステサロン」の華やかさとは少し違う。
肩の力を抜いて過ごせるリビングのような空間に、思わず長居したくなる。
「何屋さんだろう?」
階段を上がる前からそんな好奇心を抱かせる店構えも印象的だった。
閉鎖的なサロンではなく、初めてでも入りやすい雰囲気を目指したという言葉に納得する。
「広告費をかけるくらいなら、空間に投資したかった。」
その言葉どおり、内装には一切妥協しなかった。
デザイナーと何度も打ち合わせを重ね、「こんな場所なら安心して入れる」と思える空間を形にした。
実際に歩いてみると、サロンというより上質なリビングのような心地よさがある。
施術が始まる前から、少しずつ緊張がほどけていくような感覚だった。
オープンは2020年。コロナ禍の真っただ中だった。
延期も考えたが、「ここでやめたら、一生お店は持てない」と覚悟を決めて開業。
予約がゼロの日もあり、不安でいっぱいだったという。
それでも「あのタイミングだったから出会えたお客様がいる」と笑って振り返る姿が印象的だった。
逆境を経験したからこそ、人の不安や苦しさにも寄り添える。
それが、この場所の大きな魅力なのかもしれない。
まとめ
ヘッドスパというと、「自分へのご褒美」というイメージを持つ人も多い。
けれど、muladhara spaが届けたいのは、特別な日の癒やしではなく、毎日を健やかに過ごすためのメンテナンスという考え方だ。
肌荒れに悩み、仕事で心身を壊し、それでも「人を癒やしたい」という想いを諦めなかったオーナーだからこそ、その言葉には説得力がある。
取材を終えて店を後にする頃には、この場所が提供しているのはヘッドスパではなく、「頑張りすぎなくてもいい」と思える時間なのだと感じた。
仕事や家事、育児に追われ、自分のことを後回しにしている人ほど、一度立ち寄ってみてほしい。
きっと帰る頃には、身体だけでなく心まで少し軽くなっているはずだ。
※ 2026年6月30日現在の情報です。
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